【「テイルズオブアライズ:Beyond the Dawn」レビュー(ネタバレ)】ラブコメと友情、繰り返されるご都合主義。3960円は高い。

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2023年11月9日にテイルズオブアライズの大型DLC「Beyond the Dawn」が発売された。

今作は本編であるテイルズオブアライズの1年後が舞台の後日談として、約2年の期間を経て発売された。

しかしその開発経緯と事前情報を見る限り、とてもじゃないけど肯定的な印象を受けなかった。

本編のご都合主義に納得がいかずボロクソに叩いた身とはいえ、あくまでもテイルズシリーズのファンである俺は今回のDLCに一縷の望みを胸に購入したのだが、そんな俺の思いは儚く散ることとなった。

そんなわけでのんびり25時間遊んだうえで本作をレビューしていきたいと思う。

この記事の目次

ゲームである必要を全く感じない

まず初めに言わせてもらいたいんだけどこのDLCに3960円の価値は絶対に無い

なんならゲームである必要がないと心底思ったし、そもそも発売する必要すら無かったと思わせてくれる作品だった。

今回のDLCはストーリーに全振りしたものであるとあらかじめ明言されていて、ゲームとしての面白さが増える要素が一切ない事は知っていた。

だから発売前からずっとこれはゲームである必要はあるのか、ストーリーの続きを描きたいだけならアニメや小説で良かったんじゃないかとずっと思っていたんだけど、実際にプレイした結果それは確信に変わった。

ゲームプレイ

約2年ぶりにテイルズを起動したわけだからやっぱり懐かしい気持ちにはなる。本編と地続きの世界で共に冒険をしたキャラクター達に再び会えるのは嬉しい。

しかしその気持ちが続くのはせいぜい最初の30分程度で、それ以降は本編と全く同じシステムと似たようなテンションで物語が進んでいく。

ストーリーの雰囲気は全体的に和気藹々としておりラブコメ色の強い本編後半そのまま。発売前の情報では暗めな話になると予想していたし、俺は本編序盤の暗めな雰囲気が好きだったからとても残念。

メインストーリー短すぎ

クリアまで20時間程度と聞いていたのでそれなりのボリュームを期待していたのだが、蓋を開けてみれば計40個のサブイベントによるプレイ時間の水増しが大半でメインストーリー自体はかなり短い。

体感だがメイン4割サブ6割くらいの割合のため、メインストーリーだけを追えばのんびりやっても12〜13時間くらいで終わると思う。俺の場合は全サブクエスト完了で電源をつけたまま放置した時間も含めて合計25時間だった。

つまり公式の言う20時間というのはサブクエストありきの時間で、隅から隅まで堪能したうえでの20時間というわけだ。3960円という価格なのにボリュームがかなり少ないことがお分かりいただけるだろうか。

カメラ距離を調節できない

これは本編からずっと思ってたんだけど、マップによってカメラ距離が勝手に変わるのウザすぎ。

これが基本の画角。

一番近い画角は終わってる。近すぎてマジで酔いそう。

一番遠い画角。正直これが一番見やすい。ずっとこれにしてほしい。

クリエイターが見せたい景色があるからなのか知らないけど、カメラ距離を調整できないのは単純に不便すぎる。

戦闘システム

戦闘システムは本編と全く同じ。レベルの上限も変わらず100のままだし、新しい称号も無いので技、術はもちろん秘奥義すら追加は無い

裏ダンジョンや裏ボス、2周目の要素といったやり込み要素も皆無で、新要素は申し訳程度の新武器と、ほぼ全てのサブクエストをこなして最後の最後に強化されるブーストアタックくらい。

つまりストーリーを一回クリアすればその後の楽しみはほぼゼロ。3960円もするのに(2回目)

強化版ブーストアタックは引き継げない

キャラクターサブクエストを全てこなすと「◯◯の真髄」というアイテムを入手でき、これを所持していると各キャラクターのブーストアタックが大幅に強化される。

しかしキャラクターサブクエスト全クリ=ゲーム終盤なので、せっかく強化されてもこれを活かせる場面はラストダンジョンと闘技場くらいしかない。

更にこのブーストアタックを強化するアイテムは、2周目への引き継ぎができない

そもそもこのゲームは2周目をプレイする前提で作られていないので大した問題ではないのかもしれないが、やっとの思いで強化したのにそれを取り上げられるのはプレイヤーの努力を無にするようなもので開発は一体何を考えているのか本当に理解できない。

それなら「この一年の間に強くなった」とか理由をつけて、強化されたブーストアタックを最初から使わせて欲しかった。

雑魚戦はやっぱり爽快で楽しい…けど

仲間とコンボを繋いでブーストストライクを決める今作の戦闘システムは爽快感抜群で素晴らしい

しかしどんなに面白いものでも「飽き」というものは必ず出てくる。それにこのDLCをプレイしているという事は、少なくとも本編を約40〜50時間プレイしているはずだから尚更だ。

有料DLCなんだし今作の戦闘システムの目玉なんだから、せめてブーストストライクくらいは新規で用意してくれても良かったと思う。そうすれば多少なりともマンネリ感は薄まったはず。

結局アルフェン頼りになる

本編では8割ぐらいのプレイヤーが、アルフェンしか操作していないという統計データがあるんです。僕としては、今回のDLCを機会に、「このキャラクターも遊んでみようかな」と、ほかのキャラクターも操作してほしい思いがあります。

公式は根本的に勘違いしてるらしいが、アルフェンの使用率が高いのは単純に彼が一番使いやすいし強いから

他の近接キャラのロウ、キサラ、テュオハリムはジャスト回避、ジャストガード前提のキャラなので、対多数が基本の雑魚戦において使用難易度はかなり高い。

とはいえクセがあるキャラクターでも操作する楽しさ、戦う楽しさがあれば使いたくなるもの。使用率が伸びないのはそこが足りてない証拠。

他のキャラを使わせたいのなら使いやすくなるように調整をかけるべきなのに、わざわざ使いにくいキャラクターを無理矢理使わせられるのはストレスでしかない。

そもそも今作のバトルはフラムエッジを使用する前提の調整がされているため、アルフェンを使わざるを得ないのが実情。

特にボス戦では身を削ってでもフラムエッジを使わないと、無駄に多いHPを削りきれず長期戦になりCPも枯れてジリ貧になるため、わざわざアルフェン以外のキャラを使う理由がメリットがない

四の五の言わずに火属性ダメージ+15%のスキルを付けたアクセサリーを装備して「覇道滅封」を打ちまくろう。

ボス戦もやっぱり鬼畜で退屈

雑魚戦が爽快な一方でボス戦が鬼畜なのも変わらない。戦術もブーストアタックでダウンさせてフラムエッジを打つだけの単調なバトルで非常に退屈

テイルズの戦闘ってそれっぽく気持ちよくなれる事が良いところだったんだけど、ボス戦にはそれが一切無い。緊張感があると捉える人もいるけど、緊張感のあるアクションがやりたい人はダークソウルやります。棲み分けって大事。

ボスのバリエーションも見たことのある奴ばかりだし、見たことのある動きだから新鮮味はゼロ。新規のボスはナザミルとラスボスくらいだろうか。

というかラスボスの演出まで本編と同じなのは驚いた。HPを減らすごとに各ペアのブーストストライクを決めていくのも同じだし、体力が非表示になりオーバーリミッツ!からのフラムエッジ打ち放題なのも同じ。

ただ今回はラストバトルに仲間達も参加していたのは嬉しいポイント。やはりRPGなのでパーティメンバーの一体感を感じる演出は熱い。

オープニングテーマ「HIBANA」がBGMとして流れる演出も良かった。エクシリア2のラストバトルやジアビスのアッシュ戦を思い出す。

こういうオープニングテーマがバトル中に流れる演出はやっぱり熱い、とてもいい。

全体的に手抜きが目立つ

安っぽいカットシーン

今回はアニメシーンは無く3Dモデルの演技に力を入れているとのことだったが、とても3960円のDLCとは思えない出来栄え。

本編にはあった列車の上での戦いやヴォルラーンとのチャンバラのような見応えのあるカットシーンも無い。

極め付けは暴走したナザミルにボコボコにされて、全員仲良く這いつくばって長時間ピクピクしてるシーン。もうギャグかよってレベルで違和感しかない。

設定の無駄遣い

本編でもそうだったけど興味をそそる設定や意味ありげな演出があるのに、それっぽいだけで意味のないものが本当に多い。本編でのアルフェンの刻罪の鎧の所以なんてその最たる例。

わざわざこんなセリフまで用意しておいて、故も知らぬただの鎧でした~なんて拍子抜けもいいとこ。

これがもし300年前のアルフェンが着ていたものだったらくっそ胸アツだったのに。王道を謳うならそういう所もちゃんと貫いてくれよ。

他にも空から降ってきた4つの光とかもそうだけど、今作のシナリオ担当は理由づけ次第では面白くなりそうなオイシイ設定をドブに捨てるのが本当にお上手

その1、外廟

外廟(げびょう)はDLCの新ダンジョンなんだけど、とにかくその設定から存在まで全てが空気。

外廟はもともとレナ世界の崩壊を遅らせるための施設だったのだが、世界が融合した後もこれが影響し、ダナとレナの完全な融合を妨げてしまっているという。

これを封印するためにアルフェンとシオンは旅暮らしをしながら世界中を回っているとのことだが、外廟があることで何か不都合があるのかと思えば何もない

設定として語られているのは、外廟によって6属性になった世界の星霊力の均一化が妨げられていたり

本来なら物質に取り込まれるはずだった星霊力が溢れてキラキラと舞っていたり

空にはレナの星の残骸のような物が帯のように舞っていたりするのだが、ただそれだけで特に害がない

星霊力が均一化しない事によって異常気象が起きているとか、物質からレナの星霊力が抜け出てしまい土地が虚水化してしまうとか、そういった実害があれば新しい世界の問題として張り合いがあった。

しかし実際のところ外廟の封印は全く緊急性が無く、目に見えて何か問題が解決するわけでもないため、アルフェン達の活動には何の説得力も意義も感じられないため、とりあえず付け加えただけの雑な設定といった印象が拭えない。

どうせ緊急性のない施設なら外廟を裏ダンジョンとて配置して最奥には裏ボスがいたりと、やり込み要素として実装してくれた方が良かった。

その2、世界合一後の各地の変化

ダナとレナが合体した形の世界となっているので、本編に登場した街やフィールドの多くは再び訪れることができます。ただ、すべてのフィールドが同じ形で登場するのではなく、再構成している場所もありますし、新ダンジョンもあります。それと、ダナとレナが統一されたことにより、風景も変わったりしていますよ。

世界合一後の各地が変化し、再構成されているためそこを見てほしいと公式は言っていたので、一体どんな変化があるのか楽しみにしていたのだが

花が咲いていたり

レナの星舟や街に馴染めなかった一部のレナ人がその周りに居るなど、新しいオブジェクトが配置されているだけで、再構築と呼べるほど大幅な変更はない。

新ダンジョンと銘打った外廟も登場したのはたったの3つと少なく、既存のマップの隅の方に入り口が配置されているだけ。

スキットで語られていたようなレナの建物や虚水が現れて困っているという話も

一部のマップの遠景として描写されているだけ。

レナの建物の出現によって地形が変わってしまったとか、虚水の処理に困っているといった要素を既存のマップに落とし込めば、一度歩いた場所でも新鮮なゲーム体験になったはずだ。

それを「地形が変わってしまって危険だから」とか

「工事中だから」と理由をつけて立ち入り禁止にしたり

本編のカラグリア地方のマップ
DLCのカラグリア地方のマップ

そもそも主要な街以外のマップは殆ど実装されていないなど、世界の変化を表現できる機会を自ら削る姿勢には疑問を覚える。

それに伴ってカラグリアの岩と砂だらけの街から一歩出ればシスロディアの雪の街に行けてしまうので、世界の広さを全く感じられなくなっている。

その3、燃え上がる王の紋章

かつて自分達が救ったはずのダナの人々によって、友達であり仲間であるナザミルを不当に傷つけられたことにアルフェンは激昂し、怒りを抑えきれず炎の剣を振るってしまう。

その際に背中の王の紋章が赤く燃え上がり、城の外からでも確認できるほど巨大な炎の壁を出現させた。

怒りによって力を発揮したのは明白だが、なぜ王の紋章が炎に染まったのかは謎のままだ。

だがこれがもしアルフェンの怒りの炎だとしたら、本編で度々ヴォルラーンと対峙した際にアルフェンの紋章が燃え上がらなかった説明がつかない。

シオンを目の前で攫われガナスハロスのダナ人達ををまとめて虚水にされた時や、最終決戦でシオンを殺されそうになった時よりもナザミルを傷つけられた怒りの方が大きいのか?

いずれにせよ感情の昂りによって力を発揮するのは大いに理解できるが、それについて最後まで特に触れられる事もなかったし、紋章を燃え上がらせる演出は本当に必要だったのだろうか。

こうやって何か理由があるのかとミスリードを誘って、特に理由もないただの演出でした〜というのが一番冷める

一部のキャラ付けが露骨で不快

本編からずっと思ってたんだけど、今作は一部のキャラクターに特徴を持たせるためなのか知らないけど、かなりわざとらしいキャラ付けがされている。

お前の事だよ、ロウ。

アニメによくいる典型的なわざとらしいバカ。申し訳ないけど俺はこういうキャラが本当に苦手。

こういう声を露骨に変えるお芝居(45秒あたり)とかも制作側の演出なんだろうけど、ロウというキャラクターが喋ってるというより【CV:松岡禎丞】が喋ってるだけにしか聞こえない。

異常な程わざとらしいオーバーリアクションとか。明らかに不自然だし面白くない。

賑やかでお調子者という設定だとしても、でかい声で騒いだりとかそういう事じゃないでしょ。

軸がブレブレのストーリー

本編のエンディング後、彼らの世界にはまだまだ課題が残っているはずだと思ったんです。双世界が物理的に統合しても、いがみ合っていた人々の気持ちまで簡単に融和できるのか。難しいテーマですが、そこに着目して物語を描こうという流れになったのはある意味必然的な帰結かもしれません。

 また、「キャラクターたちのその後が知りたい」というファンの方々の意見が多かったのも理由のひとつです。

と、DLCを開発するに至った経緯が語られていたのだが、肝心の「人々の気持ちの融和」というテーマをまともに描けていない。

物語の内容はナザミルとの友情とパーティの色恋ばかりで、共存とか相互理解といった誰もが本当に知りたかったはずのその後の世界の問題は上澄みをなぞるだけで終わってしまう。

話の主軸はナザミルとの友情

今作のストーリーをざっくりまとめると「ナザミルというぽっと出のキャラクターを取り巻く薄っぺらな友情物語」でしかない。

ダナとレナの対立、英雄視されるアルフェンの苦悩、迫害されるナザミルなど、色んな問題をストーリーで扱ったはいいもの、あっちこっち風呂敷を広げすぎてどれも中途半端になってしまっている。

結局ダナとレナの融和なんてそっちのけで、プレイヤーはパーティメンバーの仲良しこよしとナザミルとの薄っぺらな友情ばかりを見せつけられる。

全員イチャイチャしすぎ

もはや本作の恋愛要素は物語のスパイスではなくメインといっても過言ではない。ひたすらに「友情」「絆」「色恋」の話ばかりが展開されていく。

俺はキャラクター達の仲良しこよしや恋愛模様じゃなくて、アルフェン達が差別や対立という現実と向き合いどんな答えを出していくのかを見たかったんだ。

なにより俺がやりたかったのはラブコメじゃない。RPG、テイルズオブがやりたかったんだ。ここまで恋愛要素を推すならキャッチコピーを「愛と友情が世界を救うRPG」に変更した方がいい。

カップリングのゴリ押し

知っての通り今作のパーティメンバーは全員もれなくカップリングが存在している。それもあって今回は6人パーティの一体感というよりも、3組のカップルによるトリプルデートといった方がいい。

カップリングそのものを否定する気はないが、ここまで露骨に公式が恋愛要素をゴリ推しするのは少し引いてしまう。

アルフェン&シオン

Tales of ARISE – Beyond the Dawn Prelude より引用

いわずもがな主人公カップル。

シオンがアルフェンに惚れた理由は分かるけど、アルフェンがシオンのどこに惚れたのかは未だに理解できていない。

婚礼の儀について調べているなか、誰かと結婚するのかと問われて必要以上に隠そうとしたり

そもそも相手がシオンだと丸わかりなのに、言い当てられて異常に照れてるのが不自然極まりない。

本編のエンディングではキスしてたし、もう2人での旅暮らしも1年になるのに今更なぜそんなに隠そうとするのか理解に苦しむ。

ロウ&リンウェル

Tales of ARISE – Beyond the Dawn Prelude より引用

公式のゴリ推しカップルであり脚本の被害者。

こいつらはお互いに惚れた理由がずっとわからないし、この関係に至るバックボーンも誰よりも薄く何一つ共感できない。

互いに照れ隠ししながらいちゃついたり、たまにすごく素直になってみたり、かと思えば照れて素直になれなくて強い発言をしたり、誰の目から見てもお互いに好きなのにそれを認めようとしないというツンデレ系の典型的なラブコメ。

脚本家が単にこういうやりとりを入れたかっただけなのが丸わかりで冷めるし、ラノベ臭を撒き散らすこの二人の絡みを見ていると本当にイライラする。

テュオハリム&キサラ

Tales of ARISE – Beyond the Dawn Prelude より引用

お互いの事を信頼し理解し合っている。夫婦のような安定感があり唯一見ていて不快にならない。

発言の一つ一つに込められた相手への信頼感は、もう夫婦ですやんと言いたくなるほど。

普段大人で落ち着いているテュオハリムが、キサラに「テュオ」と呼んでもらいたくなってるのはギャップ萌え。

博識、褐色、美形、イケボ、天然。そりゃテュオハリムさん人気出ますわ。

ナザミルを活かしきれていない

DLCのキーキャラクターであるナザミルは、レナの領将【スルド】の父親とダナの奴隷の母親の間に生まれたハーフの女の子。

ダナからは憎き領将の娘だからと、血筋を重んじるレナからは奴隷の血が混じった半端者だからと疎まれ、この世界に彼女の居場所はどこにもなかった。

そんな彼女を中心に物語は展開されるのだが、ゲーム全体を通していまひとつ彼女の存在をうまく扱えていない印象。

感情移入できない

この物語はいかにナザミルに感情移入できるかが肝となるのだが、彼女と行動を共にする時間は極めて短いため感情移入する前にナザミルはパーティを離脱してしまう。

かといってその短い時間のなかで、ナザミルの過去や心情の変化を丁寧に描写できているわけでもない。

本編にはあったはずの野営でパーティメンバーと交流を深める機能も削除されており、短いメインストーリー以外でナザミルの事を知れる機会も殆ど無いため大した思い入れも生まれず、敵対してしまう悲しさやパーティを離脱した喪失感をあまり感じられない。

結果的にナザミルにどんな事情があったにせよ「独り善がりで皆を巻き込んで、突然メンヘラが暴走して病んでしまった女の子」としか映らない。

にも関わらずアルフェン達はナザミルと仲良くなるのが異常に早い。出会ったその時からとにかく仲良くなろうと必死で、化け物じみたコミュニケーション能力で距離を縮めていく。

リンウェルに至っては出会った次の日には「友だち」という言葉が出るほど。しかしこの程度で友だちなんて言われても「私たち友だちでしょ?」って連呼する薄っぺらい友情みたいで押し付けがましいし滑稽。

終始こんな具合なので、アルフェン達がぽっと出のキャラクターに異常に肩入れしているように映ってしまい、ナザミルに対するプレイヤーとアルフェン達の感情に温度差がありすぎてとてつもない違和感を覚える。

大した積み重ねも無いまま「絆のお守り」と、たった数回のご飯だけで「仲間」だの「友達」だの熱く語られても、なんて薄っぺらい友情なのかと鼻で笑いたくなってしまう。

因縁が無さすぎる

彼女の父親はガナスハロスの元領将ウルワギル・ヒルドリス。

いや…誰?

それもそのはず、本編では既にヴォルラーンに殺害されているため名前しか登場せず、人物像も語られていないモブ中のモブ。

領将が全員集合した上の画像にすら描かれていないので容姿も不明。

唯一声だけがナザミルの回想で登場するのだが、そのシーンもごくわずか。

ウルワギルはナザミルの依存的な体質の根本にある「誰かの役に立たないと価値がない」という考えを植え付けた元凶であり、この考え方が今回の騒動を引き起こすきっかけになるため彼女の過去はかなり重要な部分だ。

しかしここが全くと言っていいほど描かれていないので、アルフェンの役に立ちたいと頑なになっていたり

ナザミルが人一倍孤独に怯えている理由がとても分かりづらい。

有料DLCのメインキャラクターの重要なバックボーンなのにこれは手抜きもいいところ。もっとナザミルの過去に焦点を当ててキャラクターに重みを出さないと、ナザミルが何故愛に飢えているのか伝わってこないし全然魅力的に映らない。

悪質なミスリード

『ARISE』本編でプレイヤーに立ちはだかってきた領将“スルド”の娘でもあるという(どのスルドの子かはプレイ頂くまでの秘密にしておきます)非常に興味深い生い立ちを持ったキャラクターです。 

これは一番腹が立ったんだけど「プレイヤーに立ちはだかってきた領将の娘」と予告しておきながら、蓋を開けてみれば登場すらしていないキャラの娘だったなんてとんだ肩透かし。

確かに「領将の娘」であるのは嘘ではないけれど、アルフェン達に立ちはだかったのはウルワギル本人ではないからこの表現は本当に悪意があるというかなんというか…。

「そっちが勝手に解釈したんでしょ?」と言われても否定できない絶妙なライン。まどマギのキュゥべえを思わせる。

そんなこんなでナザミルは、プレイヤーにとってもアルフェン達にとっても「なんかよく知らない奴の娘」でしかない

もし本編でアルフェン達が倒した領将の娘という設定にしていれば「世界を救った一方でナザミルのたった一人の父親を殺していた」という因縁が生まれ、プレイヤーも彼女に対して思う所があり何かしらの感情を抱いただろう。

ストーリーで関わる時間が短く感情移入がしづらいのだから、尚のこと本編での因縁を引き継ぐようなキャラクターにするべきだった。

ただの「かわいそうな子」

彼女の産まれた理由には愛もへったくれもなく、ウルワギルが己の権力を誇示するための道具としてダナの奴隷に産ませただけという、擁護の余地すらないシンプルなド畜生。

しかし仮に権力として誇示するならばナザミルが徹底的に隠されて育った意味がわからない。己の立場が危うくなった時のための保険だったのだろうが、いざという時のためにずっと育て続けるってコスパが悪すぎる気もする。

いずれにせよ父親であるウルワギルの人物像は殆ど掘り下げられる事もなかったし、ナザミルの出自には何のドラマも無く、重要なところは全部セリフだけで片付けられているので、悲惨な設定てんこ盛りのただの「かわいそうな子」でしかなかった。

俺の勝手な妄想

占領下のガナスハロスでウルワギルと女の奴隷との間に愛情が芽生えナザミルが産まれたが、この世界では隠して育てざるを得なかった。

ナザミルが生まれてまもなく母親はレナ兵の気まぐれに命を奪われてしまうが、ウルワギルは領将という立場上、奴隷であった母親を守る事ができなかったため、娘だけは誰にも傷つけさせまいと徹底的に隠して育てられる。

しかし6属性を宿すナザミルの特殊な出自に目をつけたヘルガイムキルは、彼女を〈王〉の調整体のサンプルとして拉致。彼らの偽装工作によってナザミルはダナの反乱分子に殺害されたことになり、娘を失ったウルワギルは乱心しダナ人への憎悪を募らせ弾圧を強める。

十数年後、調整を放棄されたナザミルが帰ってくるも「偽物」と罵られ一度は殺されそうになるが、自身の特徴的な白髪と母の面影を強く残すナザミルを見て踏みとどまる。

愛した人の死、娘の死、ダナへの憎悪、そして目の前にいる死んだはずの娘。現実を受け止めきれなくなったウルワギルの心は壊れてしまい、手当たり次第に暴力を振るうようになってゆく。

やがて廃人となり、ヘルガイムキルの重要な計画の一つである領戦王争【スルドブリガ】への関心も示さなくなったウルワギルは用済みと判断され、ヴォルラーンが送り込まれ…。

「悪とされる行動の裏には、単純に否定できない理由がある」テイルズオブシリーズは元来そういうストーリー作りが上手かった。

今回はハズレだったけど。

設定の詰めが甘い

ナザミルは他にも魅力的な設定をいくつも持っているのだが、整合性のないのもや全く理由の無いものが多い。

〈王〉と〈巫女〉以外に操作できないはずの外廟が不完全な調整体であるナザミルにも操作できてしまう事とか、姿を消せる能力とかヘルガイムキルの脳内を覗けた事とか。

全く説明されない特殊な能力があるのに、登場キャラの誰一人疑問に思わないのは不自然すぎる。

星霊術で生まれる虚水

ナザミルにはダナとレナの血が流れているため6属性全てを使う事ができ、異なる属性を組み合わせた術を使いこなし、治癒術も瀕死の人間の傷を一瞬で治癒できるほど強力。

これには術への知識が豊富なリンウェルや治癒術に心得のあるシオンも驚きを隠せなかったほどで、術師としてのポテンシャルはかなり高い。

しかしその強力すぎる力と引き換えなのか、周囲の物質を虚水化してしまうという現象を起こしてしまう。

知っての通り虚水は物質や生命が星霊力を失い液状化した完全な「死」として描写されているが、今回はこれが星霊術によって生まれてしまった。それが意味する事とは…。

ヒントはこのモブの「空気中の水分を集めて放出している」というセリフ。

「水を放った地面から水を集めてまた放水してたら意味が無くね?」というツッコミは置いておいて

「星霊術でも無から水を作り出すことはできない」とのことなので、星霊術は物に宿る星霊力を操る、若しくは消費しているという事だ。

つまりこれはFF7の魔晄やFF16のエーテル、テイルズシリーズではお馴染みのマナのようにエネルギー問題に直結する。

ナザミルの星霊術が周囲を虚水化させてしまった事をきっかけに、星霊術の本質について深掘りされていく…なんて事はない。

「何故ナザミルの星霊術は虚水を生むのか」という誰もが気になる謎には一切触れられることもないまま物語は幕を下ろす。

「使い方次第で毒にも薬にもなる力」という超オイシイ設定なのに、単にニズの人々のトラウマを刺激するだけの材料でしかなかった。星霊術の仕組みじゃなくても「調整体として不完全なことに起因するバグ」とかいくらでも理由付けはできだろうに。

ナザミルの扱いが酷すぎる

雰囲気をぶち壊すサブイベント

これはもうRPGだからある程度は仕方ないんだけど、ストーリーもシリアスになってきて佳境という時にほのぼのとしたサブイベントが発生するのは違和感しかない。

野暮なこと言うなよって思うだろうけど、終盤ではナザミルが孤独に苦しんでいるのに、そっちのけで和気藹々としたサブイベントが大量発生するから目に余る。

アルフェンはシオンとの婚礼の儀について調べていたり

将来シオンと2人で暮らす土地を探したり

シオンとの未来を考え結婚を匂わせたり

このようにストーリーとサブクエストの温度差がありすぎて、遊びながら「ナザミルを放ったらかしにして俺は何ををやっているんだろう」と思わずにはいられなかった。

ハブられるナザミル

許せないのは皆んなでパンケーキに合うミックスジュースを作るサブイベント。

何でナザミルがいないの?

こういうイベントにはキャラクターの個性が一番出るんだから参加させてあげてよ。

そうすればナザミルの味の好みを知れるとか、初めて食べたパンケーキに感動するとか、手先が器用で意外と料理が上手いとか、ナザミルというキャラクターの表現に結び付けられたんじゃないだろうか。

口だけの友情

一番許せないのは合一の薔薇が咲き乱れるベルク火山でのスキット。何でここにナザミルがいないのか本当に理解できない。

「皆でまたここに来よう」

「これからもいろんな思い出を皆で作っていこう」

彼らの言う「皆」の中にナザミルが入っていない事に激しい怒りを覚えたのは俺だけだろうか。

この時はちゃんとナザミルを含めて「皆」と言っていたのに。

「大事な友達」とか「仲間」という発言があったにも関わらず、ナザミルの「ナ」の字も出てこない。

なんて薄っぺらい友情なんだろう

なんて寂しい人達なんだろう

まさに今この時ナザミルは仮面に閉じこもって自分を消そうとしているというのに。

せっかく仲のいいパーティなんだから、孤独に苦しむナザミルをこういった和気藹々としたイベントに参加させてあげてほしかった。

本当に”分かってない”

時系列的にはDLCの後に来るはずのアルフェンとシオンの結婚式。そこにナザミルの姿はない。

だから何でだよ!?

いや本編のエンディングにケチつけんなよって言いたい気持ちはわかる。ナザミルが居たら辻褄が合わないだろって意見もわかる。

だけど俺だってDLCのエンディングを見るまでこんなこと思わなかった。

エンディングのネタバレ注意!

スタッフロールで背景のキャラが一人ずつ増えていく演出、あれいいよね。

仲間たちが1人ずつ増えていってさ、アルフェンの仮面も消えて、ナザミルのお守りもキラッと光ってさ…。本編での冒険を思い出させてくれるすごくいい演出だったよ。

どうせならその演出で一番最後の結婚式の一枚絵にナザミルを追加してあげれば良かったんじゃないかな。DLCをプレイする事によって、この結末がさらに幸せなものになったら最高にハッピーじゃないか。

というか散々ナザミルの事を「友達」と呼んでいたのに結婚式に呼ばないなんて薄情すぎるだろ。自分だけが呼ばれてないなんて知ったらナザミルが泣くぞ?

俺が見たかったのはひとり微笑むナザミルの一枚絵じゃない。これまで孤独に悩み苦しみ続けてきたナザミルが、仲間や友達に囲まれて幸せを噛み締め、誰かの幸せを願う姿だ。

一緒に行動する時間が短く心理描写も無いから感情移入はできないし、大した積み重ねもないのに「友達」や「仲間」という言葉に絆されて、挙句その大事な友達の結婚式には呼ばれない。

あまりにもナザミルが可哀想。わざわざ新キャラを用意したくせにこの扱いって…。お前らは一体何がしたいんだ。

やめられないご都合主義

アライズのご都合主義なんて今に始まった事じゃない。もはや「アライズ=ご都合主義」という式が俺の中に存在しているため、既に諦めや呆れに近い感情を抱いているのだが、それにしたって今回も酷すぎる。

例えば本編でのアルフェンの「炎の剣」当初これは彼の痛覚がないからこそ扱える設定だった。アルフェンは痛覚がないからこそシオンと出会い、炎の剣を振るいカラグリアを解放する事ができ、物語が始まったわけだ。

物語中盤にアルフェンの仮面は完全に砕け、痛覚を取り戻したにも関わらず、なぜか炎の剣を使う事ができその威力も増している。

しかしその理由がはっきりと語られることもなく、不思議と耐えられるからという謎設定で片付けられた。

周りの奴らも「二人の絆が深まったから」だの「テュオハリムに至っては「胸の内に、炎の剣以上の炎が燃えているから」などと、各々勝手な解釈で勝手に納得してるくらいガバガバ。

こんな具合に本編は進行していき、終いにはエンディングすら超ご都合展開のおかげで無理矢理ハッピーエンドになった。

DLCのストーリーはこのご都合主義を更に煮詰めて悪化させたようなものなので手がつけられない。

公式はずっと今作は読後感の良さにこだわっているとアピールしているけど、こんなご都合まみれで何も問題が解決していないのに「ハッピーエンドでした〜、めでたしめでたし〜」じゃねえんだよ。

「炎の剣」と呼ばれるアルフェンの苦悩

アルフェンはアルフェンで、双世界が合体した世界の中で、自分がどんな存在として受け止めてもらうのか悩んでいます。ダナ側から見れば世界を救った存在ですが、レナ側から見ると、レナを破壊したような存在なわけで。

アルフェンはレナやダナの人々から「炎の剣」と呼ばれる事を快く思っていない。

レナから破壊者として疎まれるのは事実なので仕方ないとして、ダナ人から「英雄なんだから俺たちを助けるのは当たり前だろう?」と言わんばかりに頼られるのが重荷になっているようだ。

この事からメインストーリーではナザミルというハーフの子供との関わりを通して、ダナとレナの中立に立つアルフェンの苦悩が描かれていくんだと俺はずっと思っていた。

ストーリー中盤、アルフェン達はニズの街で暴動が起きそうだと報されて駆けつけたが、既に街は過激派のダナ人達が引き入れたズーグル(魔物)に襲われており混乱を極めていた。

その騒動のなかでナザミルはズーグルに襲われていた街の人々を助けたのだが、またしても化け物と罵られたうえ、その異質な力を恐れたダナ人に銃撃されてしまう。

ナザミルを庇ったアルフェンの頬を弾丸が掠め、アルフェンはこれに激昂。

自分たちを助けようとしてくれた人をも不当に傷つけるダナ人に対し「罪のないものを傷つけるというのなら、俺の敵は…!」

そう言って炎の剣を抜き巨大な炎の壁を出現させた。これは城の外からも確認され「ダナの英雄がダナに剣を向けた」と街中が大騒ぎになってしまう。

街の協力者からは「ほとぼりが冷めるまで街には近づかない方がいい」と言われたものの、これはもうそんな次元の話じゃない。

ナザミルを傷つけられ怒りが爆発した勢いとはいえ、アルフェンがダナの人々に手を上げてしまった事に変わりはない。

ナザミルを守るためだったという真実があれど、噂というものは尾ひれがついて広がるもので、ある事ない事を言われながら広がっていくのは目に見えている。

ここからアルフェンはダナの英雄から一転して、レナからもダナからも敵視されてしまう…というヘビーな展開を俺は期待していた。

リアリティの欠如

しかしあの一件から数週間経とうとアルフェン達は何事もなかったようにメナンシアで過ごしているし、この噂に言及してきたのはレナ人の母親ただ1人。

その後に訪れるシスロディアでは、さすが英雄だと感謝され

カラグリアでも「さすがは〈炎の剣〉」と頼りにされまくりで、つい数週間前にあんな事件があったという事を微塵も感じさせてくれない。

あんな騒動を起きているはずなのにアルフェンに対するモブ市民達のこの反応には全くリアリティを感じない。

英雄として人々の願いを聞き続けることに疑問を覚えたアルフェンは、以前から世話になっているドクという医者に相談する。

そのなかで一人の人間にできることには限りがあることに改めて気づいたアルフェンは、そのことを人々の前で語り掛ける。そして二つしかない手で何を掴むのか、そして何を捨てるのか…。そんな葛藤が描かれることもなく話は進んでいく。

「英雄としてではなく、一人の人間としてこれからもみんなを助けたい」とカラグリアの人々の前で演説をするアルフェン。「いざとなれば英雄がなんとかしてくれる」と誰かに依存する限り奴隷と変わらないんだと。

当然市民からの反発を受けるアルフェン。

そりゃそう。ただ語りかけられただけで自立心が芽生えたら苦労しない

しかし「〈炎の剣〉に頼りきりはもう終わりだ、自分でできることは自分でやるんだ」というカラグリアのリーダーの鶴の一声で彼らはあっさり心を入れ替える。

どつやらこの世界には超ポジティブ人間しか存在しないらしく、直前までもう英雄が助けてくれないと解釈して不満を覚えていた住民達も、何故か急に「俺たちならやれる!」とめちゃめちゃ前向き。

お前らいくらなんでも聞き分けが良すぎるだろ。

そもそもニズでの一件では「英雄に頼れないなら」と、市民たちが自ら武器を取った結果ナザミルは撃たれそうになったわけだ。

英雄をあてにできなくなった過激派の人間にとっては、これが暴動の引き金になる事も否定できないのに、そういった可能性には一切触れられない。

やはりこういった部分にシナリオの都合のよさを感じてしまう。

重要な事をサブイベントにするな

それでも奴隷根性が抜けきらず〈炎の剣〉を当てにする人々は一部存在する。そして次第に疲弊していくアルフェンは夢の中で宿敵ヴォルラーンと対峙する。

本編でアルフェンは自分も選ぶ道によってはヴォルラーンと同じようになっていたかもしれないと言っており、実際にニズでは話の通じない相手や考え方の違う相手を力でねじ伏せるという、力と恐怖による支配を謳っていたヴォルラーンと同じ事をしてしまった。

怒りを抑えられず手を上げてしまった事を悔やみながらも、どうすればよかったのかという葛藤を抱えるアルフェン。そんな彼に「俺の言った通りだろ」と言わんばかりに語り掛けるヴォルラーン。

これは人々に英雄視される事に悩む、彼の今後の振る舞い方を決める重要なイベントだ。

でも何でサブクエストなの?

どうしてこんな重要な話をサブクエストで終わらせるんだ。

ヴォルラーンは本編の因縁を引き継ぐキャラクターなのにこの扱いは本当にありえない。どう考えてもメインストーリーで扱うべき内容だろ。

というかバンナム…お前らまたやりやがったな?

中途半端な姿勢のアルフェン

まずは公式サイトのアルフェンのキャラ紹介を見てほしい。

炎の剣でダナ人をレナの支配から解放した元奴隷の若者は、自身も〈炎の剣〉の異名で知られるようになった。

だが英雄と破壊者を意味するその名は次第に重荷となり、アルフェンに街に居つかず、シオンとの旅暮らしを続けることを選ばせた。

そんな彼を、ダナとレナの軋機を一身に負った少女ナザミルとの出会いは、否応なしに本来の立場に引き戻す。

レナからは破壊者と疎まれダナからは英雄視される日々のなか、次第に「炎の剣」という肩書きが重荷になり人を避けて旅暮らしをしてきたというアルフェン。

そう思いつつも人々を助けるため英雄としての責任を投げ出さなかったのはアルフェンらしいけども、それならせめて英雄の象徴のようなクソ目立つ鎧を脱げよと思った。

ゲーム内のセリフでは英雄に見られたくないから本編ラストの白い服は着ていないとのことだが、どっちかというと鎧の方が英雄感ある。本編でも鎧を着てた時間の方が長いし。

要は「英雄を望む声に応えたい、でも頼られすぎるのはしんどいから街には居つかない」ということなんだろうけど、人を避けるなら避けるで普通の服を着るとかちゃんとやれよ。

声をかけられただけで〈炎の剣〉と分かるような格好をしておいて頼られたら不機嫌になるって、一体何のために人目を忍んで旅暮らしをしているのか理解に苦しむ。

英雄を望む大衆の声に応えたいが頼られる苦しさも表現したいなら、他のメンバー達は新衣装に身を包むなかでアルフェンとシオンだけが昔の格好のまま変わっていないといった演出があった方がいい。

こうすればアルフェンはこの一年、ずっと英雄の名前に縛られていた事や「炎の剣」と呼ばれることに抵抗があるなかで、鎧を着ざるを得なかったアルフェンの苦悩や窮屈さをプレイを通してプレイヤーにも伝えられたんじゃないだろうか。

もしくは、ゲーム開始時は新衣装として用意された普通の服を着てシオンと旅暮らしをしていたが、ナザミルとの出会いを通して「否応なしに本来の立場に引き戻す」とあるように、物語の途中から再び刻罪の鎧を着ざるを得なくなるという流れでもしっくりくる。

賛否は分かれるだろうがアルフェンのコスチュームに制限をかける事で、彼の窮屈さがプレイヤーにも伝わるようなゲーム体験にしてもよかったと思う。DLCとしてコスチュームを有料販売している以上無理だろうけど。

この流れなら後半のイベントで「炎の剣」という肩書きと責務からから解放されたアルフェンにシオンがかけた「着たい服を自由に着れるのは素晴らしい」という言葉にも実感が持てる。

しかし実際はいつでも着替えは可能だったので、そんなことを言われても全く説得力無いし開放感も感じない。

迫害されるナザミル

先に話したようにナザミルはDLCのメインキャラクターなのだがその扱いは極めて杜撰。

ナザミルが迫害を受けている描写はストーリー全体を通してもニズの街だけという有様で、その後に訪れるヴィスキントでは既に共存が確立されているため彼女のような存在も普通に受け入れられていた。

「ダナにもレナにも居場所が無い」という設定はどこにいったのか。お願いだから設定を守ってくれ

動機がしょぼい

仮面の力で世界中の人々の意思を統一して皆にアルフェン達を好きになってもらうという壮大な計画だったが、あれだけ大規模な事をするに至るには動機が弱すぎる。

「自分のことなら我慢できる、でも友達が嫌われるのは嫌」というのは理解できるが、あの一件でアルフェンを敵視していたのはニズの人々くらいなので「そこまでやる?」と思ってしまうのが正直なところ。

騒動から数週間経とうとアルフェンの悪評がニズの街より外に広がっている様子はないし、シスロディアやカラグリアに顔を出した時は、そんな騒動があった事なんて全く知らない様子で頼りにされまくりだったし。

仮にアルフェンが世界中から敵視され、自分と同じくダナにもレナにも居場所がないという状況になっていれば「自分のことなら我慢できる、でも友達が嫌われるのは嫌」というナザミルの主張にも説得力があった。

仮面を使った計画も「アルフェン達の居場所を作ってあげたい」という強い動機も生まれて、よりドラマチックな展開になっていただろう。

視野が狭い

差別や迫害という社会問題を描いているにも関わらずナザミルに関わる範囲でしか物語が展開しないし、彼女以外にハーフのキャラクターは一切登場しない。

赤の他人。それこそナザミル以外にもハーフのキャラクターを登場させて、彼女が自分の立場を俯瞰して見られる機会があったり、社会がハーフという存在をどのように受け止めるべきなのか考えているなど、第三者を巻き込む展開がないため話のスケールが非常に小さい。

それにダナとレナのハーフがこれからの「普通」になっていくと言うのなら、物語中でダナ人とレナ人が結婚してハーフの子供が産まれるというイベントがあっても良かったはずだ。

カガリとノッティオというダナ人とレナ人の夫婦が既にいるのに全く活かせていない。 というかお前いつまで装甲服着てんだよ。CG用意するの面倒だっただけだろ。

そのためナザミルが受けた差別も迫害も、彼女の「個人的な問題」というミクロな視点でしか描けておらず、世界全体の課題というマクロな視点が欠けており極めて視野が狭い。

どうしてそんなに笑えるの?

最終的にナザミルは自分を受け入れ、自らの意思で仮面を外し晴れやかな笑顔を見せてくれた。ずっと暗い顔ばかりだったナザミルの笑顔は胸にくるものがある。

とはいえレナとダナのどちらにも居場所がない彼女の生きづらさは何ひとつ解決されていないのにどうしてこんなに笑えるのだろうか。

確かに彼女が生きづらい原因は他人軸で生きる本人の依存体質であり、本人の心の在り方ひとつで変わるものもあるのは認める。しかしその根本にあるのは居場所がどこにもない不寛容な社会であってそれは気の持ちようでどうにかなる問題じゃないでしょうが。

ナザミルはどこに行っても疎まれ、嫌われ、拒まれて居場所がなかったのは社会全体の意識の問題であって、ナザミル自身が「今まで自分を持たなかったから」とか「生き方を自分で決めてこなかったから」とか的外れすぎるんだよ。

何も悪い事をしていなくても、ただ生きているだけで理不尽に石を投げられるのが差別や迫害の現実であって、そこに自分を持つかどうかなんて関係ない。

ナザミルが仮面を外せたとて、居場所がどこにもなくて迫害されている現実は何一つ変わっていないのに「仲間がいるから」「友達がいるから」なんて所詮詭弁なのよ。

そもそもの話、生まれてからずっと虐待や迫害を受け続けてきた彼女が、たった数日たった数回一緒にご飯を食べてお守りをもらっただけで自分のことを好きになれたら苦労しない。

ラストバトルでもアルフェン達に優しい言葉を掛けられただけで自我を取り戻すから、やってる事が構ってほしいだけのメンヘラちゃんとさして変わらない。

こういうのは他人の言葉でコロッと立ち直るんじゃなくて、ナザミルの自身の中にある他者から感謝された経験や言葉、誰かと一緒に過ごして幸せだった事を反芻して、自分の意思で立ち直るという展開の方がグッとくるものがある。

まあ、そんな振り返れるほどの積み重ねも無いから無理だろうけど。

お咎めなしのナザミル

そんなこんなで事態は収束し、場面は変わりエンディング。

キサラ曰く人々はナザミルに仮面を被せられていた間のことは何も覚えていないらしく、じきに今回の騒動は忘れられるだろうという希望的観測。

それでも仮面着けられる直前の記憶はあるだろし、あれだけのことしておいてお咎めなしってどうなの?

世界からその存在を疎まれているナザミルがこんなことをしたんだから、何かしらの報復があったっておかしくないのに一人で旅に送り出すってお前ら正気かよ。

これは流石にご都合主義の権化と言わざるを得ない。

「直球勝負の現実」とは?

「Beyond the Dawn」の名の通り、夜明けの向こう側に待っている未来と現実について、アルフェンたちの心の旅路のその後を直接描く、直球勝負の物語です。

どこがだよ

ナザミルの迫害もアルフェンの苦悩も、こんなご都合だらけの有様で「未来と現実を直接描く直球勝負の物語」なんてよく言えたものだ。

今作では融和や対立をもっとビビットに描こうとしています。

 ダナでもない、レナでもないナザミルが深い悩みを抱えながらも、アルフェンたちとどう交流していくのか。そして気持ちのすれ違いや救いも含めて、そこを深く描くことが本作の狙いとなっています。

だからどこがだよ

一体これのどこがビビット=鮮明に描けているというのか。ナザミルのエピソードなんて鼻くそみたいなボリュームしかないのに、これで「深く描く」なんて冗談も程々にしていただきたい。

とにかく全てが中途半端。ナザミルの受けた差別も孤独もアルフェンの苦悩も孤立も、もっともっと徹底的に描かないと何も響かない。

ご都合主義に逃げてハッピーエンドに拘ってる場合じゃなんだよ、本当に。

ナザミルを登場させた意味がない

ナザミルをメインにするのはいいんだけど、設定の詰めも甘いし影も薄いし因縁も無いし、そもそもゲームものボリュームも少ないしで本当に残念。

せっかくの新キャラなのに勿体無い。こんな扱いするくらいならナザミルを登場させる必要なんかなかった。

妄想をつらつらと

あの旅から1年。

英雄としての身を隠しシオンと旅暮らしをしていたアルフェンはナザミルとの出会いを通して、止むに止まれず刻罪の鎧を再び着る事になる。彼女との関わりのなかで依然無くならない対立や差別を目の当たりにするアルフェン。「英雄だから」と言って身勝手な欲望を押し付けてくる人々に彼の心は次第に疲弊していく。

その一方で、ナザミルも彼らと共に非情な世界と向き合うなかで人の優しさや暖かさに触れ確かな友情を育んでいくが、ニズでの一件でダナ人に攻撃されてしまい、それを庇ったアルフェンはこれまで抑えていた怒りが爆発しダナ人を攻撃してしまう。

それ以降ダナ人からは「堕ちた英雄」と嫌悪され、レナ人からは「破壊者」と疎まれ〈炎の剣〉は世界共通の敵となりアルフェンは孤立してしまう。今後も〈炎の剣〉として生きるのか、それとも一人の人間として生きるのかという苦悩を抱え、ざわつく世間から身を隠すためアルフェンは鎧を脱ぎ再び身をひそめる。

そんななかナザミルは独り、アルフェンの居場所を作るためにある計画を胸に皆のもとを離れてしまう。外廟とナザミルを探しながらアルフェンは一人の人間として世界を回るなかで、人々は徐々に英雄に頼らない生活に慣れていき、多少の諍いはありつつもレナとダナの共存の兆しを見て希望を抱く。

しかしナザミルが進めていた外廟と仮面を利用した計画が実行され、これがアルフェン達に拒まれてしまい彼女は心を閉ざしてしまう。そして枢幹を動作させた代償として次第に各地の外廟が活性化し、ダナの各地は異常気象や虚水化という天変地異に見舞われてしまう。

原因不明の災害に戸惑いながらも徐々に結束していく人々。世界を蝕むレナの負の遺産を破壊するため、この世界に生きる一人の人間として世界を救うため、そして何よりも友人を救うために立ち上がるアルフェン。

その夜、アルフェンは夢の中でヴォルラーンと対峙する。これまでの旅でアルフェンが見てきた差別や迫害、他力本願な人々とこれから先どのように関わっていくべきなのか。依然争いの絶えない世界とどのように向き合っていくのか。一度は手を上げてしまったアルフェンはその問いに迷い、剣を交える。

その果てに「英雄」はもういらないという答えに至り、何者も抑えつけない自由な道を選ぶアルフェン。迷いを断ち切り夢から目覚めたアルフェンは最後にもう一度英雄の名を背負い、鎧を纏う覚悟を決め最後の戦いに赴く。

「行こう。〈炎の剣〉の最後の仕事だ。」

最後の戦いで鎧は砕け、シオンの持つ火の主霊石(マスターコア)の精霊力が尽き炎の剣も消滅して、英雄〈炎の剣〉はその役割を終える。その後の世界では一人ひとりが自分の力で生きていき、アルフェンは1人の人間に戻りシオンと共に暮らしていく。

【総評】3960円の価値はない

もともと価格は高めだと思っていたけど、それでも妥当だと思えていたのはそれに見合った内容とボリュームがあると期待していたからだ。

しかしここまで話してきたように、今となってはこの内容でよく3960円も取ろうと思ったなという感想しか湧いてこない。

以下は世間でも評価の高いゲームの大型DLCの価格表。

Bloodborne2200
ゴーストオブツシマ2200
ウィッチャー33057
ポケモンSV3500
アライズ3960
モンハンワールド3990
モンハンライズ3990

モンハンのように新しいモンスターを定期的に追加して、無限に遊べるようなエンドコンテンツを提供するわけでもない。

Bloodborneのように高難易度の新しいボスや新ダンジョンなど、周回するごとに敵が強くなるなど何度もプレイしたくなる要素があるわけでもない。

ウィッチャー3、ゴーストオブツシマ、ポケモンのように新しいマップを用意して、そこで新しい物語を展開するようなものでもない。

単にストーリーを見せたいだけでこの価格、そしてここまで散々言ったようにこのクオリティだ。一体どこにこんなに金が掛かっているのか謎でしかない。

おおかた次回作のための資金回収といったところか。これではとてもじゃないけどお値段相応の体験ができたと思えないし、どうにも金儲け臭がしてならない。

適正価格は1500〜2000円程度

DLCの発売に伴って本編の価格が改定されたのだがその価格は4400円、対してDLCの価格3960円だ。その価格差はたったの440円。

この内容の少なさで本編とほぼ同じ価格は流石にない。どう考えても内容と価格が釣り合ってない

やはりストーリーを見せたいだけでこの価格は強気すぎるし、肝心のストーリーも本編の半分以下と短く手抜き感が否めず雑な設定も目立つ。そのうえゲームとしての新しい体験は皆無で、何度も遊びたくなるようなスルメ要素もない。

これで3960円はいくらなんでも殿様商売がすぎる。世界のスマホを牛耳るAppleじゃあるまいし。テイルズというブランドにあぐらをかいているのが丸見え。

内容を考えればせいぜい1500〜2000円程度が適正価格。数百時間は余裕で溶けるモンハンと同じ価格帯でこれはない。

アライズが死ぬほど好きなら買い

今回のことでやっぱりテイルズはキャラとシナリオが超大事なんだなと実感した。

もちろんどこに価値を感じるかは人それぞれだし、アルフェン達が大好きな人にとっては、どのような形であれその後を見られただけで満足している人がいることも分かっている。

だとしてもこの内容で3960円は高すぎる。完全に客を舐めきっているとしか思えない。これに納得している人は一回目を覚ました方がいい。

そうなると、描くべきはその後の世界に残された、人の心にある問題なんですよね。それをより象徴的に描くために、キャラクターやドラマを中心に設計を固めていきました。当初の想定よりドラマのボリュームも増えて、まさにPRの場で使った「劇場版『アライズ』」という表現にふさわしいものになったかなと思っています。

だけど開発が狙っていた「劇場版『アライズ』」はとてもわかる。新しいメインテーマもあったし。そこに満足感があったかどうかはともかく。

というかそこしか理解できなかった。申し訳ないけど。

今後もテイルズオブシリーズがこの路線で行くようなら購入は見送りたい。ラブコメも友情ごっこもご都合主義も、もうお腹いっぱいです。

でもコレが売れちゃってるんだよなぁ…悲しい事に。

このDLCはキャラクターが好きでたまらない人や「テイルズオブアライズ」というゲームそのものが死ぬほど好きな人に向けたファンディスクのようなものだ。そんな人は買っても損はないだろう。

逆に普通に面白かったなぁとか興味があるなぁと思う程度のユーザーは絶対に買うべきではない。

なぜならここにあなたの求める物は無いし、3960円の価値は絶対にないから。

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