【「テイルズオブアライズ」レビュー(ネタバレ)】ザ・王道。愛とご都合が世界を救うRPG
2021年9月9日にテイルズオブシリーズ最新作の「テイルズオブアライズ」が発売された。かねてからシリーズのファンでもある俺は、今作が25周年記念タイトルということもあってかなり注目を寄せていた。
ということで5年ぶりの新作であるテイルズオブアライズをレビューしていくんだけど、先に結論から言ってしまうと深く考えなければ楽しめる作品と言ったところ。
合計90時間プレイして、何故そう思ったのかを解説していきたいと思う。
ゲーム序盤の展開は最高
「記憶喪失の主人公がヒロインと出会い、旅に出て悪者を倒していく」という王道すぎる展開で驚きも意外性も無かった。
しかし痛みを感じない主人公と触れると痛いヒロインという設定は凸凹がうまくはまったような感覚で、2人の出会いが必然である説得力があった。
主人公の仮面の謎やフラッシュバックする記憶、何故か自分にだけ使える炎の剣など、いい具合に謎を与えながら話が進んでいくから先の展開がどうなるのかと想像が捗ってワクワクが止まらなかった。
特にゲーム開始からカラグリアの領将ビエゾを倒すまでが最高に面白い。
仮面が割れて自分の名前を思い出し、夜明けの太陽を背にしながら高らかに己の名を叫びオープニングムービーが流れるという、まるでアニメの第1話を思わせる展開は物語の幕開けとして最高の演出だった。
しかし悲しいことに面白いのはここまでだった。
序盤以降は不自然な展開が続く
狡猾な策士で知られるシスロディアの領将「ガナベルト」
レナに反抗するダナ人を捕らえて過酷な強制労働に従事させている一方で、こういった反乱分子を密告した者には報奨金を与えるといった手段を用いて、奴隷同士を互いに監視し合わせ疑心暗鬼にさせることで団結を防ぎ反乱の芽を摘んでいる。
更には変装を駆使し、自らがシスロディア抵抗組織のリーダー「メネック」として振る舞う事で、反抗的なダナ人達をまとめ上げコントロールしていた。
その立場を利用して、アルフェン達の精神的支柱であったカラグリア抵抗組織のリーダー「ジルファ」を毒殺。あとは残るアルフェン達を倒せば反乱の火種を潰せるはずだった。
それなのに、あろうことかガナベルトは何の罠や対策も無しにアルフェン達を自分達の拠点に招き入れ、その最奥で自身が1人で迎え打つという暴挙に出てしまい、そのまま4対1でボコボコにされて敗北した。
これまでは影武者を用いたり変装を駆使したり人の心に付け込んだりといった頭脳派だったのに、なぜか急に脳筋になってしまった。
策士という設定がある以上、最後までそれらしい立ち回りをしてほしかった。
悪目立ちする雑なアニメ
その後に訪れるミハグサールで、領将アウメドラによる凄惨な殺戮を目撃することになる。
これは本当にあのufotableなのかと目を疑った。驚くことにこの2枚の画像は同じムービーに存在する別々のカット。
全く同じ絵を別のカットでも使って手抜きでないと言えるだろうか、いや無理。
オープニングムービーでも思ったけど、今作のアニメはお世辞にもクオリティが高いとは言えない。おそらくその原因は同社の制作していたアニメにある。
時期が悪かった
これに関しては仕方がない。というのも当時はufotableが制作していたアニメ「鬼滅の刃」が社会現象と化していた。映画も超大ヒットしたうえ新作アニメの放送も控えていたし、当然コロナによる外出自粛の影響もある。
前作までのテイルズの作画と鬼滅の刃の出来を考えれば、鬼滅にスタッフも予算も持っていかれたのは確実。でも企業の目線ならテイルズと鬼滅のどっちがお金になるかを考えれば答えは明白。だから鬼滅に人員を割いたufotableの選択は超正しかったし俺も同じ立場ならそうしてる。
なお、ufotableが本気を出したものがこれ。どうしてこうならなかった。
爽快感の高いバトル
「ブーストストライク」は敵を一撃で葬ることができる所謂フィニッシュ技で演出も豪華で非常に爽快。
これを発動するにはコンボを繋いでゲージを溜める必要があるけど、そのためにいろんな技の組み合わせや仲間との連携を考えるのが面白い。
この「コンボを繋ぐ」というテイルズの醍醐味が戦闘システムと上手く絡まっていたのが見事だった。
防御は撤廃され回避が基本の戦闘システムになっている。
敵の攻撃を引き付けて回避することで、その後のカウンターで敵を確定でのけぞらせることができる等のメリットがあり、そこからコンボを繋げてブーストストライクで敵を倒すいうのが基本的な戦闘スタイルだ。
ジャスト回避の要素は以前からもあったけど防御という選択肢が無くなった事で、以前よりもスピード感のあるバトルを楽しめるようになった。攻撃を見極めてコンボを繋ぎブーストストライクを決めるという戦闘はとても爽快で楽しい。
理不尽で苦痛なボス戦
物語中盤、特にこのミハグサールに入った辺りからボスが異常に強くなる。本当に強い、強すぎる。
ボスが強いなんて当たり前だろ
そんな声が聞こえてくるけどまずは聞いて欲しい、本当にこのゲームは難易度調整が狂ってる。
というのもボスの攻撃力とクリティカル率が異常に高い。だいたい2.3発喰らえば瀕死。ちなみに難易度はノーマルでもこれだ。
だからジャスト回避ができないと話にならないし、一度回避したとしてもその後の連撃から抜け出せずに即死するという事態が頻発する。
これを緊張感がある戦いと捉えられるかは人それぞれ、俺には無理だった。
常時スーパーアーマーの化け物
今作のボスは絶対にのけぞらない
常時スーパーアーマー状態だからボスの攻撃の合間を縫ってチクチク殴るのが基本戦術で、雑魚との戦闘とは立ち回りが大きく異なる。
モーションの長い技を使うと自分の攻撃中に反撃を食らうのはザラだから、隙が少なくダメージ効率のいい一部の技を連発するだけの単調な戦闘になってしまいがち。
そのため、ボス戦において「コンボを繋げる気持ちよさ」「仲間との連携の楽しさ」は一切存在しないし、テイルズの醍醐味である仲間と連携してコンボを繋ぐという要素が死んでしまっているといっていい。
せめてヒット数に応じてダメージ倍率やクリティカル率が上がるなどのボーナスがあればよかった。
ハイリスクハイリターンの連続
そんな僅かな隙に大ダメージを叩き込むことができるのがアルフェンの特殊技「フラムエッジ」
これはボタンを長押しした分だけHPが減り威力も上がるというハイリスクハイリターンの大技。加えてダウン中の敵に対してダメージが増加する特性を持っているから必然的に多用することになる。
この超強力なフラムエッジは最大チャージすれば5桁のダメージを叩き出すことも可能なんだけど、その最大のデメリットはHPが1or瀕死になるという事。
自発的にHPを削るのは思ったよりもストレスがすごくて、攻撃後は何を食らっても死ぬという諸刃の剣。
こういった具合に雑魚とは打って変わって爽快感もクソもない戦闘が待ち受けている。
ジリ貧を強いられるCPシステム
HPが減ったなら回復すればいいでしょ
そんな声が聞こえてくるけど、そんな簡単は話ではない。
回復にはCP(キュアポイント)という専用のゲージを消費するんだけど、ボスと戦っていると何故かこれが恐ろしい速さで減っていく。というのも広範囲の回復術や蘇生術はCPの消費量がかなり多い。
プレイヤーはジャスト回避などである程度は技術の向上でダメージを受ける機会は減らせるけど、CPUはそうはいかない。
戦っていれば当然ダメージを受けるし戦闘不能にもなるから、そこにフラムエッジの消耗が加わればCPは驚くほどあっという間に枯渇してしまう。
加えてこのCPはパーティ全体で共有する仕様になっているから回復役を温存しておくという事もできない。
だからいざという時にCPが足りなくて回復や蘇生ができなかったり、HPが少なくてフラムエッジを溜められないという事態が頻発する。
高すぎるアイテム
そんなCPを回復できるのはシリーズお馴染みのオレンジグミ。しかし今作はとにかくオレンジグミがとても貴重かつ高価。そのお値段なんと1個3000ガルド。
どうかしてる。マジで高い、高すぎる。とても気軽に買える値段じゃないし、そもそも序盤では売ってすらいない。
こんな価格設定のおかげで、俺を含む殆どの人の場合グミを節約=CP(回復)をケチる事になるから、少ない体力で戦闘不能に怯えながら戦い続ける事になる。
かといって回復をしないわけにもいかないからCPが尽きるのは時間の問題。結果的にプレイヤーはジリ貧を強いられることになる。
お金が必要なら稼げばいいじゃん
そう思うだろうけど、致命的な事に今作の雑魚敵はお金を落とさない。
お金を稼ぐ方法は主に換金アイテムの売却かサブクエストの報酬金のどちらか。
だから序盤からサブクエストや鉱石の採取を積極的にしないと永遠に金欠から抜け出せないし、仮に僅かなお金でグミを買ったとしても今度は武器や防具が買えなくなるというジレンマを抱えている。
脳死でマラソンしていればお金が増えるといったことがなく、能動的にお金を稼ぐ意識をしていないと増えないようになっているのが妙にリアル。ゲームでくらい楽させてほしい。
陳腐で説教臭い復讐論
魔法使いの一族の生き残りであるリンウェルは幼い頃、アウメドラによって一族を皆殺しにされ激しい憎悪を抱いていて、復讐のためにアルフェンたちの旅に同行していた。
このミハグサールでリンウェルは仇敵であるアウメドラと対峙する。一族と両親の仇を討つため「私はこのためだけに生きてきたんだ」と明確な殺意を持って攻撃を放つ。
すると突然ロウが飛び出し、何故かアウメドラへの攻撃を庇いリンウェルを制止する。ロウの言い分は「憎しみのままに殺すのは良くない、きっと後悔する」という陳腐極まりないもの。
彼は父親への反発から勢いに任せ家を飛び出し、その結果シスロディアの仲間達や父親を死に追いやったという後悔を抱えている。
仲間と父親を殺した張本人であるガナベルトを倒してもその後悔が晴れることはなく「取り返しのつかない事をした」「このままどこかで野垂れ死ぬさ」という激しい虚無感に襲われる経験をしていた。
これはその虚無感をリンウェルに味合わせまいとの行動だったと後に説明が入るけど、彼の行動には全く説得力がない。
ロウの行動は説得力ゼロ
そもそもの話、父親と和解できなかった後悔と父親を殺した相手への憎しみは別の感情だ。
「どうせ後悔は晴れないから、大切な人の命を奪った相手を憎むのは間違っている」とはならないし、それが復讐を否定することには結びつかない。
何よりもリンウェルの事情をよく知らないまま自分の過去を重ねて、他人の復讐に口を出した彼の行動は理解に苦しむ。
そしてもう一つ、ロウは自身の復讐そのものを後悔している様子があまり無い。
復讐を遂げて激しい虚無感に襲われたと言っているけど、実際目に見えて落ち込んでいたのはシスロディアを出るまでで、その後はムードメーカーとして明るくひょうきんなキャラクターとして描かれている。
とてもじゃないけど虚無感とか後悔とか、どこかで野垂れ死んでしまうような不安定な心の描写が無い。
この理論を通すなら、ロウは一度廃人になって、行き場もなく死にそうになっているところをアルフェン達に拾われるという展開があるべき。そうでないとこの行動に説得力が生まれない。
世界観から乖離した価値観
そんなロウの身を挺した制止によってリンウェルは矛を収めることになる。
その後仲間達から「憎しみだけが支えなら、復讐を終えた後は何を支えに生きていくのか」「勢いのまま、憎しみのまま行動しても気が晴れる事はない」という言葉をかけられる。
その後アウメドラと再び対峙したリンウェルの下した決断は「殺しても気が晴れるのは今だけ、生かして罪を償わせる」というものだった。
これは現実に即した平和的な判断だけど、よくよく考えみればこの世界には「法」が存在しない。
法の存在しない世界で悪人を生かしたまま罰を受けさせるという事を、彼女は具体的にどのような方法で考えていたのだろう。
それに大前提としてこれはゲームでありファンタジーだ。現実では許されないことが表現として許されるのがゲームのいいところ。前作ベルセリアがいい例だった。
「憎くても殺すのはダメ」「赦すことが大事」こんな説教臭い使い古されたものは義務教育の道徳の授業でやるべき。
リンウェルの下した決断、もといこのゲームの伝えたいメッセージは決して間違ってはいない。
だけどあまりにもゲームの世界観から乖離している価値観のため、ただの安っぽいメッセージになってしまっている。とても残念。
雑で急すぎるストーリー展開
まさかの2つ目のオープニング、テイルズ史上初の演出に感銘を受けた。
ここまで物語に多少の粗があったもののかなりのボリュームで、ダナを開放しそこに黒幕らしき存在が出てきて、信じていたものが崩れ去り舞台はいよいよ宇宙へ!と盛り上がりがすごすぎて、ここから更に第2部が始まるのかと、今作はどれだけボリュームの大きい作品なんだと非常にワクワクしていた。
「終わりではなく始まり」そう言って始まった第2部だけど、実際はこの時点で物語の7割が終了している。今思えばここが最高潮だったし、ここから先の尻すぼみ感は否めない。
雑に片付けられた重要っぽい要素
突如レナから放たれた4つの謎の光。 オープニングにも登場した各属性を象徴するかのようなこの敵たち。
イフリート
ウンディーネ
ノーム
シルフ
過去作での精霊の名をつけられており、さもストーリーに絡む大事な要素かと思いきやこれらはまさかのサブイベントだった。
ストーリーで唯一イフリートと戦うんだけど、そこでは詳しい情報は一切語られず「新たなレナからの尖兵ではないか」という憶測のみで「町への被害を抑えられたならそれでいい」と雑に片付けられた。
他のいずれにおいても単に住民を困らせている存在でしかなく、それ以上の設定は何も分からないままでその答え合わせがされることは最後までなかった。
ご丁寧にオープニングにも登場していたのにこの扱いである。
どう考えても何かしらの設定があったのは明白なのにこんな不自然に片づけられるのは単に脚本が悪いのか、それとも制作の都合で削られたのか。
いずれにせよ、バンナムは重要になりうるイベントをサブイベントで片付けるという同じ過ちを繰り返した。俺はゼスティリアでのアイゼンの扱いを忘れていない。
一気に明かされすぎる真実
ネタバレ注意
その後アルフェンの出自やシオンの能力について明らかになり、真のレナ人である「ヘルガイムキル」が登場し、この世界のあらゆる秘密が一気に明かされていく。
ちなみにこの時点でラストダンジョン直前の最終盤なのに黒幕が誰なのかも倒すべき敵もはっきりと分かっていなかった。もう最終盤なのに(2回目)
- 300年に渡るダナの占領とスルドブリガは、失われたレナスアルマを作り出すために必要な膨大な星霊力を集めるため、ヘルガイムキルによって作られた仕組みであること
- アルフェン達の知るレナ人は全て、ヘルガイムキルが人手不足を補うためにダナから攫った人々に改造を施して生まれたということ
- ダナの消滅を防ぐためにはレナの星霊を討たなければならないこと
いくらなんでも情報量多すぎ。
これまで謎を小出しにしながら風呂敷を広げてきたのに、それを一気に畳む勢いで全ての種明かしをされて、理解が追いつく前に話が進んでいく。
全ての元凶であるレナの星霊を討つ方法は2つ
- 莫大な星霊力の器であるレナスアルマに星霊を封印する
- 巫女の力で星霊を取り込んだシオンを殺す
シオンを犠牲にしないと彼女に誓ったアルフェンは迷わず前者を選ぶ。
だけどこの時点でシオンを救う方法である肝心のレナスアルマが手元に無いうえ、レナの星霊が持っているかもしれないという確証のない情報をあてにしてラストダンジョンへ足を運ぶ事になる。
基本的に「かもしれない」「だろう」「きっと」で話が進んでいく。不確定な情報ばかりでプレイヤーの気持ちは盛り上がる訳もないのに、それでもストーリーは進んでいく。
今更感が強すぎる真実と提案の数々
ヘルガイムキル曰くレナとダナの星霊力の在り方は違うらしく、レナの星霊力は一か所に集まって強い自我を持っているのに対して、ダナの星霊力は星全体に薄く広がっていて自我を持たないとのこと。
ラストダンジョンの道中リンウェルはそれを思い出し、ダナの星霊はダナの人々に少しずつ宿っていて、その想いが1つになれば助けを得られたかもしれないと言う。
しかし現実的にダナの人々が全員同じことを考えるなんて都合のいい方法は無く、これはただの可能性と憶測の話でしかない。
そもそも「助けを得る」というのが具体的にどのような意味なのか定義されることもないし、この段階に来て可能性の話をされても、それを実現する方法を探すこともできない。
それがどれだけ素晴らしいものであれ、どのみちアルフェン達はレナスアルマを取り返して星霊を封印することしかできないのに。
ラストダンジョン終盤、レナの星霊力に触れたリンウェルは世界の真実を知る。
- 世界は1つに生まれるはずだったけど、なぜか2つに分かれて生まれてしまった
- レナの星霊は自身の消滅を恐れる「怯え」の感情から、強行的な手段で2つの世界を1つにしようとしている
早い話、レナの星霊に悪意はなかったという事。
本当に遅い、遅すぎる。
さっきも言ったけど最終盤で発覚する事実が多すぎ。今更そんな事を知ったところでどうしようもない事ばかり。
プレイヤーもアルフェンたちも星霊を封印するためにここまで来ているし、世界が元は1つだったとか知ったところでっで話。「戦わずに済んだのかもしれない」とか言われても今更なのよ。
とはいえこれら全て後の超ご都合展開のヒントになる。でもこれを伏線と呼ぶにはあまりに雑だし、ご都合展開に伏線のクソもない。
脚本家のエゴが透けるラノベ展開
テイルズは最終決戦の前に、パーティメンバーたちが戦いへの決意や、出会ったころやそれぞれの過去を振り返ったり、胸中を吐露したりするといった決戦前夜イベントが恒例だ。そしてその中でその想いが恋心に発展する事も少なくない。
物語に恋の要素はつきもの、それがRPGなら尚更。
でもそれは自然な形で存在する場合の話であって、今作は物語が終わりに近づくにつれ、それまで何もなかった者たちにも恋愛フラグが立ってしまう。
アルフェンはずっと孤独だった彼女の心に触れて彼女と「共に生きよう」と約束をする。
シオンにとっての彼は自分を理解し受け止めてくれるかけがえのない存在だ。
これまでずっと死ぬためにだけに旅をしてきたシオンが、涙ながらに「生きていたい」と思えたのは間違いなくアルフェンのおかげ。
キサラにとっての彼は、利己的な理由であったとはいえ自分たちを奴隷ではなく1人の人間として平等に扱ってくれた恩人だ。
テュオハリムにとっての彼女は、自身の自虐的で後ろ向きな面を励まし支えてくれる頼もしい存在だ。
もっと言えば身の回りの事が何もできないテュオハリムと、世話焼きなお母さん気質のキサラはどう見ても相性ぴったりのパートナーだ。
この二人がよく分からない。
というのもこの2人には他のメンバーのような深い接点が無い。強いて言うなら前述したミハグサールでの一件くらい。そのくせロウはリンウェルに無自覚な好意を抱いていて「撫でてやりたくなる」という謎の発言をする。
リンウェルはロウが他の女の子に鼻の下を伸ばす事にやきもちを焼いて嗜めたりするなど、素直になれず彼への好意を認められないツンデレ。
わざとらしいほど鈍感なお調子者の脳筋男と、気が強くて素直になれない女の子の両片思いという、ライトノベルにありがちな設定。こういうのを見てキュンキュンする人もいるんだろうけど、申し訳ないけど俺は全く好きじゃないしむしろ嫌い。
というのもライトノベルにありがちなのは恋愛描写がわざとらしいのに、死ぬほど鈍感な男はそれに気づきもしない。そして何故だか知らないけどお互いに好きで、そのきっかけも不明瞭な場合が多い。
生きたキャラクターが惹かれ合ったというよりも、作者がこういう展開をやりたかっただけというエゴが見えてしまう。この2人は脚本の被害者。
ご都合だらけのエンディング
ネタバレ注意
レナの星霊を倒しレナスアルマを取り返したのも束の間、因縁の相手であるヴォルラーンが現れ、レナスアルマを奪われてしまう。
激闘の末ヴォルラーンを倒し、憎しみを乗り越えて赦し合う道を選んだアルフェン。
しかし力による支配こそが全てという対極の道を征くヴォルラーンは当然その思想を受け入れる事はできず、シオンを救う唯一の方法であるレナスアルマを抱えて自爆、絶命した。
アルフェンの主張は「赦し合いだけが差別や対立を乗り越えられる」という、平和的であり綺麗事にも聞こえるものだったが、結果的にはその他者を赦す強さ、もとい甘さが徒となりシオンを救う唯一の方法を失ってしまった。
シオンを失うことが確定したアルフェン。
自分の選択がこの結果を生むことを覚悟をしていなかったのか、この期に及んで後悔の言葉を垂れ流すアルフェンには「お前の責任だろ」としか思えなくてイライラが止まらなかった。
シオンに手を下すことを躊躇っていると、唐突にアルフェンは「ダナの星霊力に呼びかければ助けを得られるかもしれない」と言い出す。道中にリンウェルが話していた「かもしれない」の話だ。
当然シオンに無茶だと言われるも「無茶でもこれしか方法がない、それにこれはレナも救う方法でもある」と続ける。
アルフェンは「レナの意思は消滅への怯えという、決して邪悪なものではなかったからレナも救いたい」という。
そう。何も犠牲にしたくないアルフェンはレナの世界も救いたいとエンディングで突然言い出す。
もう一度言う、エンディングで突然にだ。
プレイヤーが置いてけぼり
ここでプレイヤーとキャラクターの気持ちが完全に乖離する。
なぜならプレイヤーはここまでレナを救うために戦っていないし、アルフェンがレナも救いたいと思っていたことは、これまで一ミリも触れられていなかったからだ。ヴォルラーンを倒した瞬間でさえレナスアルマを取り戻してレナの星霊を封印する気でいたのに。
それなのに自分の甘さが原因でシオンを救う方法が無くなった途端、ほんの思い付きで確証もない希望に縋りつく。これが令和RPGの主人公
「シオンも、レナも救いたい。だから力を貸してくれ!」
こんな他力本願な主人公が今まで居ただろうか、いや居ない。
そしてこの突然降って湧いてきた、世界とシオンの両方を救う方法がなんと成功してしまう。
これまでのシリーズなら自分の選択を受け入れてシオンを失うか、すべてを救うためにその方法を探す努力をする過程があったはずだ。
それが今作はどうだろう。アルフェンはほんの思い付きで世界とシオンを救ってしまった。祈って、願って、世界が救われる。本当にこれでよかったのか。
いいわけがない。
結果よりも過程が大事
とはいえ俺は別にバッドエンドを望んでいるわけじゃない。幸せな結末は否定しないしむしろ歓迎する。
荊の呪いで誰とも触れ合えず、人のぬくもりを知らずに育ち険しい表情ばかりだったシオンが、エンディングでは満面の笑みで幸せそうにしているのはとても心温まる。
ふたりの結婚式に参列したレナとダナの人々が共に笑いあっている光景は、対立や憎しみを乗り越え本当の意味で平和が訪れたのを感じさせてくれる。
でもそんな幸せな結末よりも、そこに辿り着くまでの過程が大事なんだ。
主人公達が努力した結果のハッピーエンドなら何も文句はないけど、今作のこれは願って与えられたハッピーエンドでしかない。結果的にアルフェンがシオンを救うためにやった事は、ダナの星霊にお願いして助けて貰っただけであって、自らが努力して勝ち取ったハッピーエンドとはとても言えない。
残された問題が多すぎる
二つだった世界を一つにして、2人は結婚してハッピーエンド、世界は平和になりました。なんて終わり方だけどこの世界には残された問題が多すぎる。
住処を失ったレナ人たちの受け入れ先は?なによりもダナ人達はレナ人に対して300年分の恨みがある。そんな彼らが過去の罪を赦し、手を取り合って生きていけるだろうか。
それが無理とは言わない、でもそれはかなり難しい問題だ。だからこそゲームを通してその答えが欲しかった。支配からの解放とその先の共存を描くならそこも部分も描くべき。
直接の描写はないにしても、モノローグなり何なり表現の仕方はあったと思う。それをすっ飛ばして「2人は結婚しました。はい、幸せなハッピーエンド」という終わり方は、ストーリーに重きを置くテイルズオブシリーズとしては流石に雑すぎる。
テイルズらしくない敵キャラ
ネタバレ注意
ここまで来て思ったのは、この作品の敵は非常にテイルズらしくないということ。
譲れない正義のぶつかり合い、もしくは目的は同じだけどその手段が違うために対立してしまうという悲しい戦い。そうした中で、主人公達は自分の行いが本当に正しいのかという葛藤が生まれていく。
この「正義vs正義」という、簡単に敵を悪だと切り捨てられない複雑で深いストーリー性がテイルズらしさだと思ってるけど、今作のラスボスに正義と呼べるもっともらしい理由が無かった。
レナのスルド達がレナ人のために戦っていたという事実も倒した後で発覚するため、スルドとの戦いは支配者(悪)と解放者(正義)の戦いという単純な構図でしかなく魅力に欠けた。
動機が薄くて魅力が無い
ラスボスであるヴォルラーンの思想は「誰にも支配されないために自分以外の全てを支配する」というもの。
つまりこれまで酷い目に遭ってきたからもう同じ目には遭いたくないという実に小物臭い理由で、そこに正義があったわけではない。
この利己的な支配者という立場がヴォルラーンを単純な悪党にしてしまっているため、解放を目指すアルフェンから見ればただの支配者という悪人でしなかなく、とてもじゃないけどもう一つの正義なんて呼べる存在ではなかった。
これまでアルフェンと戦ってきたのも、支配者である自分と同じ能力を持っているアルフェンが許せないというただの私怨で、これが小物感をさらに強めてしまっている。
最終決戦に駆けつけたのも「自分をコケにした星霊が許せない」というもので、最後の最後までアルフェンと戦う理由が薄く、悪役らしい魅力が溢れるキャラクターではなかった。
深く考えなければそれなりに楽しめる
暴力による支配への反抗から始まったアルフェン達の旅は、恩人との別れや新たな出会い、新たな価値観に触れ、迷いながらもその足を止めることはなく、支配からの解放とその先にある共存という未来に向かって進んでゆき、互いに憎しみを乗り越えて赦し合うことで心の壁を壊し、対立するふたつの世界に新たな夜明け、黎明をもたらした。
「心の黎明」というキャッチコピーに見事に合致するシナリオだった。
納得のいかない結末
だけど、このゲームが伝えたかったメッセージがアルフェン言っていた「赦し合うことの大切さ」だとするならこの結末はとても納得できない。
それならば例えシオンを失う事になっても、それが「赦す」という選択の結果ならアルフェンはそれを受け入れるべきだ。
「何も犠牲にしたくない」という都合のいい結果だけを欲しがる子供の駄々のようなものが、星霊の意思への呼びかけ、祈りや願いで、自分の選択が生んだ不都合な結果さえも無かったことになってしまうなんて、究極のご都合主義と言っていい。
シナリオ全体で見ればうまくまとまった作品であることに違いはない。
ただここまで散々言ってきたように、不自然で急な展開や雑な心理描写、ご都合展開の連続などが足を引っ張っている。設定や世界観は素晴らしいしグラフィックも綺麗なのに、小さな粗が積み重なって傑作になり損ねてしまったのがとても残念。
こういった点に目を瞑れるか、細かい事が気にならなければ作品の感想は大きく変わるだろう。
ただ繰り返しにはなるけど、俺はテイルズオブシリーズは大好きだから新作が出れば今後もプレイしたいと思っている。ストーリーの整合性とキャラクターの説得力という点を次回作に期待したい。